(8)


眠ったアスカの横で、ヤマトは膝を抱えていつまでも泣い
ていた。
(僕は彼を救おうと思っていた。傲慢だった。浅はかだっ
た。身の程知らずだった。僕を救ってくれたのは、彼の方
だった。)
長い間探し求めていた答えが、今ようやく見つかった、ア
スカがそれを教えてくれた、ヤマトはそう思って、その答
えについて考え始めた。
(かつて彼が言っていた通り、人が殺し合うのも、自然の
摂理なのかもしれない。人がどんなに抗ったところで、そ
れは変えられないのかもしれない。
この世界から戦争がなくならないなら、それでもいい。そ
れでも僕は、この世界を愛す。人の心から怒りや憎しみが
消えないなら、それでもいい。それでも僕は、人を愛す。
僕は怒らない男。僕は戦わない男。これが僕だ。これでい
いんだ。僕は間違ってないんだ。)
ヤマトはさらに、自分の考えをまとめようとした。
(人は皆、自分の答えを見つけねばならない。自分の答え
を見つければいい。人がどう考え、どう行動するかは、そ
の人の自由だ。だから、それぞれが見つけた答えは皆、そ
の人にとって正しいのだ。間違った答えなどないのだ。だ
から‥‥すべてを認めよう。自分とは違う、人の答えも認
めよう。何故なら、どのような答えであろうと、行き着く
先は皆一緒なのだ。アスカと僕の様に。)
疲れ果てた頭で、ヤマトは最後の力を振り絞って考えた。
(僕には僕の答えがある。
 僕は怒らない。
 僕は戦わない。
 僕は祈る。
 傷ついた人のために。
 不幸な人のために。
 道を踏み外した人のために。
 僕を傷つける人のために。
 これが僕の答えだ。
ああ‥‥僕は今ようやく目が覚めたみたいだ!僕はあの、
子供の時の事故から、目が覚めていなかったんだ!悪い夢
を見ていたんだ!今ようやく目が覚めた!アスカが僕の目
を覚まさせてくれた!彼に会えてよかった‥‥ああ‥‥僕
はアスカに出会えて、本当によかった!)
そこまで思いを巡らせると、ヤマトは疲れ果てて、もう何
も考えられなくなった。そして、アスカの後を追う様に目
を閉じた。

夜が明け始め、小窓から朝日が差し始めた頃、眠りに就い
たヤマトの傍らで、アスカは静かに息を引き取った。






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