(三)

与平とおつうは、夫婦のように仲むつまじく暮らしていた。
貧しかったが、幸せな日々がしばらく続いた。しかし日が
経つにつれ、暮らしぶりはだんだん悪くなっていった。与
平の稼ぎでは、おつうと二人で食べていくのは、なかなか
難しいことだった。おつうも藁細工作りの仕事を手伝った
が、それでも追いつかず、ただでさえ痩せていた二人は、
益々痩せ細っていった。

「あなた、奥に機織り機があるでしょう?」
ある日、おつうは与平にそう尋ねた。
「ああ、死んだおっ母が使ってたものだ。」
「あれを私に使わせて下さい。きっと少しは稼ぎの足しに
なりましょう。」
おつうはその晩、襖一つ隔てた奥の狭い部屋に籠って、機
を織り始めた。
「一つお願いがあります。私が機を織っている間は、決し
て襖を開けて中を覗かないで下さい。約束ですよ。」
部屋に籠る前に、おつうは与平にそう言って釘を刺した。
「ああ、わかったよ。」
与平は訳も解らずそう答えた。

おつうは一晩中、機を織り続けた。与平は気になってなか
なか寝つけなかったが、襖の向こうから聞こえて来る、と
んとんとんという機織り機の音が耳に心地よく響いて、い
つの間にか眠ってしまった。
あくる朝早く、おつうは部屋から出て来て少し休むと、ま
た部屋に戻って機を織った。

そんな日が続いた三日後の朝、部屋から出て来たおつうは
与平を起こして言った。
「あなた、起きて下さい。織物が出来ました。」
与平が目を覚ますと、おつうは少しやつれて見えた。
「大丈夫かい?だいぶ疲れてるみたいだが。」
「平気よ。それよりほら。」
おつうは織り上がった布を与平に渡した。布は与平が買っ
て来た安い糸で織ったとは思えぬような、美しいものだっ
た。
「一体どうやって‥‥こんな綺麗な布を織ったんだ?」
与平は目を丸くしておつうに尋ねた。
「説明は出来ませんが、これぐらい造作もないことです。」
おつうは静かに微笑んで言った。


(四)

与平が布を売りに町へ行くと、布は驚くほど高い値で売れ
た。おかげでしばらくの間、二人は食べるのに困ることも
なく、穏やかに暮らす事が出来た。
だがそれも束の間、やがてまた金が底をつき、次第に生活
が困窮し始めた。
「あなた、また機を織りますから、糸を買って来て下さ
い。」
おつうはそう言って、三日三晩部屋に籠って機を織った。
そうして前と同じように三日後の朝、美しい布を織り上げ
て出て来たが、その顔は酷くやつれて見えた。
「お前、あまり根を詰め過ぎるなよ。体を壊してしまう
よ。」
与平は心配してそう言ったが、おつうは首を横に振って微
笑んだ。
「いえ、平気です。さあ、またこれを売って来て下さい。」

布はまた町で高く売れ、しばらくの間二人の暮らしは穏や
かだった。だがまた少しずつ、生活は苦しくなっていった。
するとおつうは、また与平に言った。
「あなた、私また機を織ります。」
「いや、もう止めた方がいい。機を織る度に、お前はやつ
れて行くじゃないか。」
「いいえ、大丈夫です。私、機を織りたいんです。」
「しかし‥‥」
「お願い、そうさせて。」
おつうが頑なに言い張るので、与平は渋々言う通りにさせ
た。






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