(2)


小さい頃はいつも一緒だった二人も、十歳になるとクラス
も別々になって、以前ほどの親密さはやや薄れ、付かず離
れずの仲になった。
そんな冬のある日のこと、学校からの帰り道、枯れ葉の舞
う遊歩道を優子が歩いていると、後ろから二人の男子生徒
が、サッカーボールを蹴って遊びながら近づいて来た。
「やあ、優秀の片割れじゃないか。お前どっちだ?」
二人は優子の横まで来ると、そう言って彼女の顔を覗き込
んだ。
「ははあ、黙ってるところをみると優秀じゃない方だな。」
一人の男子がそう言うと、もう一人の方の男子はけらけら
笑い出した。優子と秀子は、日頃から口の悪い男子に「優
秀姉妹」と呼ばれ揶揄されていた。
「もう一人の方は一緒じゃないのか?」
男子はからかうように話しかけてきたが、優子は相手にせ
ず、彼等の方を見向きもせずに歩いた。
「お前ら見た目は一緒だけど、中身は全然違うよな?本当
に双子なのか?」
「‥‥」
「本当は仲悪いんじゃないのか?」
「‥‥」
「おい、聞いてんのか?何とか言えよ!」
「‥‥」
何を言われても優子は黙って、相手と顔も合わさなかった。
あまりにも反応がないので、男子はだんだんいらいらして
来た。
「おい、無視すんなよ!」
そう言ってふざけて蹴ったボールが、優子の顔に当たって
大きく跳ね返った。
「あっ!」
男子が思わず叫んだのと同時に、優子は両手で顔を押さえ、
声を上げて泣き出した。
「うわーん!」
「ご、ごめん。当てるつもりじゃなかったんだ。」
男子は慌ててそう言った。
「優ちゃん!」
その時、優子の後ろの方から声がして、誰かが近づいて来
るのが見えた。
「やべえ、優秀な方が来た。」
秀子は優子の前に立ちはだかると、鋭い眼差しで男子を睨
みつけた。
「あんたたち、なにしてんのよ!」
「い、いや、ちょっとふざけただけだよ。」
秀子の剣幕に押されて、男子はたじろぎながら答えた。
「弱いものいじめをして面白がるなんて、みっともないわ
ね!恥ずかしくないの?」
「なにを!」
怒って秀子に詰め寄ろうとする男子を、もう一人の男子が
後ろから腕を掴んで制した。
「やめとけよ。先生に言いつけられるぞ。」
「ちぇっ!」
そう言い捨てて去って行く二人の姿が小さくなるまで、秀
子は男子を睨んでいたが、その後、恐い顔つきのまま優子
を振り返った。
「しっかりしなよ!優ちゃんがそんなだから、あいつらに
舐められるんだよ!私もう知らないからね!」
秀子は、やり場のない怒りの矛先を優子に向けた。自分と
瓜二つの姉の不甲斐ない姿を見るのは、自分のことのよう
にもどかしく、情けなく、腹立たしかった。
「だって私‥‥秀ちゃんみたいに強くないもん‥‥」
優子は相変わらずめそめそ泣いていた。秀子は、はあと呆
れたように大きく息を吐くと、前を向いて歩き出した。優
子も泣きじゃくりながらその後を、子犬のように小走りに
追いかけた。






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