(5)
放課後の中学校の校舎から、生徒たちが吐き出され、校門
へと流れて行く。その校門の前に一人、秀子が佇んでいる。
今日は用事があるからと言って、優子は先に帰した。秀子
は、目の前を通り過ぎる生徒たちに注意深く視線を送りな
がら、ある人を探していた。
「山岡くん!」
目当ての相手を見つけ、秀子は誠を呼び止め駆け寄った。
「私、斎藤優子の妹の秀子です。」
「ああ‥‥」
誠は、表情を変えずにそう呟いた。
「話があるんだけど。」
「話?何だい?」
「ここじゃあちょっと‥‥」
そう言うと秀子は、人目に付かない校舎の陰に誠を連れて
行った。
「何だい、話って?」
誠は怪訝そうな顔をして尋ねた。
「うん‥‥山岡くん、姉に告白したんでしょう?」
「ああ、そのことならもういいんだ。断られたから。」
「そうじゃないの。姉と付き合って欲しいの。姉も本当は、
山岡くんのことが好きなのよ。」
「えっ?」
「姉と私は二人とも、前から山岡くんのことが好きだった
の。でも私に遠慮して断ったんだわ。だから‥‥私に構わ
ず姉と付き合って。」
「でも‥‥彼女がうんて言うかな?」
「大丈夫。私が説得するから。」
誠はしばらくの間、難しい顔をして考え込んでいた。
「やっぱりそれは出来ないよ。」
「どうして?」
「だって‥‥彼女が可哀想じゃないか。せっかく君のこと
を思って‥‥」
「それじゃあ私の気持ちはどうなるの!」
突然秀子は、大きな声で言った。
「ごめん‥‥知らなかったんだ。もし知ってたら、告白な
んてしなかったよ。」
秀子は何か言い返したかったが、もう言葉が出て来なかっ
た。
「じゃあ。」
そう言って誠は、秀子をその場に残して立ち去って行った。
一人取り残された秀子は、うつ向いてしばらく動けずにい
た。
惨めだった。生まれて初めて優子に負けたと思った。優子
にも誠にも同情されている、そう思うと独りでに涙が溢れ
て来た。
この一件以来、優子と秀子の間には、それまでなかったあ
る種のわだかまりのようなものが生まれ、それはこの先、
長く消えずに続くことになるのだった。
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