(3)


街の色が緑から、次第に鮮やかさを失い、黄色や赤に移り
変わる気配を見せ始め、秋が近づいていた。

学校からの帰り、優子は駅からバス停に向かい、そこで誰
かを待つようにしばらく佇んでいたが、やがてふらりと歩
き出した。それからふと思い立って、真っ直ぐ家には帰ら
ず、太鼓橋の方へ向かった。遠くの空でカラスが鳴いてい
た。
長い階段を昇りきり、丘の上の古いマンションに辿り着く
と、その階段を昇って、一番上の踊り場にある窓の前まで
やった来た。
秀子と二人でよく訪れた秘密の場所。
子供の頃は、手すりに手を掛け背を伸ばして覗いた窓も、
今は目の前の高さにあって、時の流れを感じずにはいられ
なかった。
優子は顔を窓に近づけ外を眺めた。緩やかな風が彼女の髪
を揺らした。秋めく木々を抱えた街並みの上に、山が青い
裾野を広げている。何もかも昔のままだ。変わってしまっ
たのは、自分達の方だと思った。

優子は昨日の夜、秀子が言ったことを思い出していた。世
界中のすべての困ってる人たちを助けることなんて出来な
い、秀子はそう言っていた。確かにその通りだ。そう思う
と、圧倒的な無力感に押し潰されそうになった。この世界
は悲しいことばかりだ、自分一人だけ幸せになるなんて到
底出来そうにない。

優子は寂しかった。いつも傍にいるのに、まるで秀子が何
処か遠くへ行ってしまったように感じていた。彼女を誘っ
て一緒にここへ来たかったが、どうしてもそれが出来なか
った。もしも拒まれたら、二人の友情は永遠に終わってし
まう、そんな気がして怖かったのだ。

かつて二人でこの場所に立つと、それだけでお互いの気持
ちが手に取るように理解出来た。それはまるで魔法だった。
あの魔法は、もう消えてしまったのだろうか?
私たちはいつかまた、ジョバンニとカンパネルラのような
友情を取り戻せるのだろうか?

そんな想いに、優子は体を震わせた。






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