第四章 友だち
(1)
季節は秋が過ぎゆく気配を見せ、冬の匂いが漂い始めてい
た。
ある日の放課後、教室で優子が帰り支度をしていると、一
人の女子生徒が話し掛けて来た。
「斉藤さん、今日掃除当番代わってくれない?」
「えっ、また?」
その生徒は、度々そう言って優子に当番を代わってもらっ
ていた。
「うん、ちょっと頭が痛くて。お願いね。」
「うーん‥‥」
「ちょっと待って。」
優子が返事を渋っていると、別の生徒が二人の間に入って
来た。清水春海という名の生徒だった。
「あなた、先週もその前も同じようなこと言ってたよね?
本当に頭痛いの?」
「本当よ!変なこと言わないでよ!清水さんには関係ない
でしょう?」
言われた方の生徒が、腹を立てた様子でそう言い返した。
「斉藤さんはね、これから私と用事があるの。代わって欲
しいなら他の人に頼んで。」
「そう、わかったわ‥‥」
そう言って、その生徒は渋々引き上げて行った。
「ありがとう。」
「いいのよ。一緒に帰ろう。」
春海はそう言って笑った。
冷たい風が時折吹いて、敷き詰められた落ち葉を揺らして
いた。優子と春海は、学校から駅までの道を並んで歩いた。
「斉藤さん、偉いね。いつも人の嫌がる仕事を率先してや
ってるでしょう?」
春海が落ち葉を足で蹴りながら言った。二人が一緒に帰る
のも、まともに話をするのも、この時が初めてだった。
「私、気が弱いから断れなくて‥‥」
「ううん、斉藤さんは優しいのよ。私だったらあんなこと
言われたら、どうせ仮病だろうって頭から決めつけてしま
うと思うわ。でももし本当に具合が悪かったんだとしたら、
そう思われたら傷つくでしょう?だからあなたの方が正し
いのよ。」
「そうかなあ‥‥」
「そうよ。もっと自信持って。」
春海は明るくて頭のよい、さばさばした性格の生徒だった。
そんな春海に励まされると、優子は少し気持ちが軽くなっ
た気がした。
それから二人は、度々一緒に下校したり、教室で話をする
ようになった。春海は、性格も感覚も違う優子に理解を示
し、認めてくれた。優子は、そんな春海を秀子と重ね合わ
せて、心の慰めにしていた。
新しい友達が出来たことで、優子に一足早い春が訪れてい
た。
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