(2)


ある日の放課後、秀子が校舎を出ると、校門までの道の途
中で、数人の野球部員がキャッチボールをしていた。前日
の雨でぬかるんだグラウンドを下級部員が整備している間、
手持ち無沙汰だったらしい。道の真ん中を占領して、笑い
ながら遊んでいる彼等は、明らかに下校のため校門へ向か
う生徒たちの邪魔になっていた。
秀子はつかつかと彼等に近づいて行った。
「ちょっと!こんな所でやらないでよ!危ないじゃない!」
「大丈夫だよ。ぶつけたりしないから。」
野球部員たちは秀子を一瞥して、またすぐにボールを廻し
始めた。
「ちゃんとグラウンドに行ってやんなさいよ!」
「うるせえな。」
「やめなさいったら!」
秀子は、ボールを持っている部員に近づいて、その腕を掴
んで言った。
「何すんだよ!」
部員はその手を振り払って、脅すように怒鳴ったが、秀子
は怯まず睨み返した。
「おい、何してるんだ!」
そこへもう一人、野球部員がやって来た。秀子と同じクラ
スの嶋正太だった。
「どうしたんだ?」
正太は睨み合っている二人の間に入って、秀子に尋ねた。
「この人たちがここでキャッチボールしてたから、危ない
からやめてって言ったのよ。」
「そうか‥‥」
そう言うと正太は、くるりと振り返って部員たちを怒鳴り
つけた。
「さっさとグラウンドに行け!」
部員たちは、不満げにすごすごと引き上げて行った。
「悪かったな。これから気をつけるよ。」
秀子にそう言うと、正太も彼等の後を追って行った。

その一件以来、秀子と正太は時々言葉を交わすようになっ
た。正太は、相手が男子でも堂々と渡り合う秀子に感心し
た様子だった。
「お前、凄いな。男子にあんなこと言えるなんて。」
「だって迷惑じゃない。」
「でも普通は怖くて言えないだろう?」
「そうかしら?でも悪いことは悪いって、はっきり言って
やらないと。」
秀子は少し照れ臭そうに笑った。
「でも、嶋くんが来てくれてよかったわ。あのままだとど
うなってたことか‥‥」

それから秀子は毎日、野球部の練習が終わるまで待って、
正太と一緒に帰るようになった。
「先に帰れよ。待ってるのも退屈だろ?」
「いいのよ。その間いろいろやることもあるから。」
彼女を気遣う正太に、秀子はそう言って笑った。






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