第五章 それぞれの道・秀子
(1)
高校を卒業すると、優子と秀子の間の距離は更に遠ざかっ
ていった。
秀子は環境学を学ぶため大学に進んだ。その大学は、家か
らは遠い大きな街にあったので寮に入り、学費を稼ぎ実務
経験を積む目的で、環境研究所で助手のアルバイトも始め
た。
優子は実家に留まり、地元の老人介護施設に就職して、介
護助手の仕事をしつつ資格取得を目指した。
二人とも、生まれて初めて共同の部屋から解放され、双子
の呪縛から抜け出した自由を感じる反面、一握りの寂しさ
も否めなかった。傍にいれば煩わしいが、離れていると会
いたくなる、姉妹とは不思議なものだと思うのだった。
仕事を始めて三ヶ月が過ぎ、優子はやりがいを感じるもの
の、かつて秀子が言った「世界中のすべての困ってる人た
ちを助けることなんて出来ない」という言葉が、いまだに
重くのしかかっていた。自分のしていることは正しいのだ
ろうか?本当に意味があるのだろうか?そんな思いが常に
つきまとって離れなかった。
学生寮とはいえ、生まれ故郷を離れ、都会で暮らし始めた
秀子の胸の内は充実していた。彼女は大学で学び、研究所
で経験を積み、将来社会のために働き、社会を前に押し進
めて行く優秀な人間になりたいと思っていた。それは夢と
いうより野望に近いものだった。また彼女は、以前から優
子に対して、漠然とした劣等感を持っていたので、彼女と
離れ、彼女と目に見える形の差をつけて、自分に自信を持
ち、心の平穏を保ちたいという思いもあった。
秀子が働く研究所内にはいくつかの部署があり、その中で
更に四、五人のグループに分かれていて、彼女はそのグル
ープの中のひとつに配属され、主に資料の分類、整理、文
書の作成などの仕事を担っていた。
「君、大学で環境学の勉強をしてるんだって?」
ある日、秀子が資料整理をしていると、直属の上司である
グループリーダーが話し掛けて来た。
「はい。」
「今度、うちの研究チームに加わって仕事してみないか?
勉強の役に立つと思うよ。」
「えっ、本当ですか?」
思いも寄らない持ち掛けに、秀子は驚いたが、二つ返事で
受けることにした。将来の夢に近づくまたとない機会と思
い、彼女の胸は希望で膨らんだ。
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