(3)
画廊からの帰り、優子と春海は電車の座席に並んで座って
いた。
「優子、すごい感動してたね。」
「うん、春ちゃんはどうだった?」
「私は‥‥絵もよかったけど、山岡くんがかっこよかった
なあ。」
「ふふ、そお?」
春海は上目遣いになって、何かを思い出していた。
「私、絵のことはよく解らないけど、ひとつ解ったことが
あるわ。」
「何?」
「優子、まだ彼のこと好きなんでしょう?」
「えっ?何でよ!そんなことないわ!」
急に慌てた様子で、優子は声を上擦らせた。
「嘘よ。だって彼と話してた時、耳が赤くなってたわよ。」
「違うってば!」
「ほら、また赤くなった!」
春海は悪戯っぽく笑いながら、優子の顔を覗き込んだ。
「いいじゃない。告白したら?」
「嫌よ!そんなに言うなら春ちゃんがつき合ったら?」
「あら駄目よ。私、彼氏いるもん。」
「もう‥‥変なこと言わないでよ!」
そう言ったきり、優子はそっぽを向いてしまった。
「何よ、素直じゃないわね。」
春海は不満そうに頬を膨らませた。
それから数日後、優子は春海から話があるからと、駅の近
くの喫茶店に呼び出された。
「なあに話って?」
席に座るや否や、優子は春海に尋ねた。
「うん‥‥優子、山岡くんとつき合いなよ。」
「まだそんなこと言ってるの?その話はもういいわよ。」
「よくないわ。私ね、あの後もう一回画廊に行って、山岡
くんに彼女がいるか聞いてみたの。」
「えっ?」
「そしたらいないって。」
優子は顔が紅潮して来るのが、自分でも解った。
「もう!いったい何でそんなことするのよ?」
「決まってるじゃない。愛のキューピットになるためよ。
あっ、来た!」
春海は急に立ち上がって、入り口に向かって手を振った。
「山岡くん、こっち!」
そこには誠が立っていた。春海の声に気づいて、誠は二人
のいる席に近づいて来た。優子は驚いて、顔も体も固まっ
てしまった。
「あれ?君もいたのか。」
誠は優子の顔を見て言った。優子は下を向いて、小さく頭
を下げるのが精一杯だった。
「山岡くん、こっちに座って。」
春海は立ったまま、誠に席を譲って言った。
「それじゃあ後はお二人に任せて、邪魔者は消えるわね。」
そう言うと春海は、手を振りながら店を出て行ってしまっ
た。残された二人は向かい合ったまま、お互いにしばらく
何も話さずにいた。
「あなたも春ちゃんに呼ばれたの?」
不意に優子が口を開いた。
「うん。君のことで相談があるからって。でも彼女、帰っ
ちゃったのかい?」
「そうみたい。」
「何だったんだろう、相談って‥‥」
二人はまた話すことがなくなって、気まずい雰囲気が漂い
出した。
「山岡くん、私ね‥‥」
優子は決心したように前を向いて、ゆっくりと話し始めた。
何処から飛んで来たのか、窓の外に桜の花びらがちらちら
と舞い降りて来ていた。
前へ 戻る 次へ
|