(2)


「うん、何だい?」
英一が秀子に聞いた。
「私ね‥‥」
秀子はうつ向いて、なかなかその先を言い出せなかった。
「どうしたんだい?」
英一はもう一度聞き返した。
「妊娠したの。」
秀子はやっとの思いでそう言葉を絞り出して、英一の顔を
見たが、その表情は少しも変わらず、何を考えているのか
判断がつかなかった。
「二ヶ月よ。」
英一が何も言わないので、秀子が先にそう言った。
「そうか‥‥」
そう言ったきり、英一はまた黙り込んで、頭の中を整理し
ている様子だった。
「それで‥‥君はどうしたいんだい?」
「どうしたいって?」
「つまり、子供を産みたいのか?」
「当たり前でしょう!」
「そうか‥‥困ったな。」
「どういうこと?」
「だって僕はアメリカに行くんだよ?」
「子供は欲しくないの?」
他人事のような英一の態度に、秀子は少し苛立ってそう問
い質した。
「僕は大事な仕事をしているんだよ。地球の環境を守るっ
ていう。」
「子供をおろせっていうの?」
「わかるだろう?子供が出来てしまったことには責任を感
じるけど、僕には家庭を持っている暇はないんだ。一個人
の子孫繁栄と地球の環境保護と、どっちが大事だと思う?」
「それがあなたの考える正義なの?一つの命も守れない人
が、どうして地球を守れるの?」
秀子にそう言われて責められると、英一は少し感情的にな
って声を上擦らせた。
「僕にどうしろっていうんだ?結婚して、君と子供を養っ
て欲しいのか?僕に庇護を求めるのか?」
「庇護じゃないわ。お互いに助け合うってことよ。私は子
供を守るわ、あなたがいなくても。」
二人はお互い顔を見合せ黙り込んだ。
「女には勝てないな。」
英一はため息をついて、独り言のようにそう漏らした。
「そうやって男は逃げるのね。」
秀子は呆れて言った。
その時、二人の話を遮るように、秀子の電話が鳴った。母
の里子からだった。
「もしもし。」
電話に出ると、里子は取り乱した様子で話して来た。
「秀子、すぐに来て!」
「どうしたの?」
「優子が車に轢かれて、重体なの!」
「えっ?」






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