(2)
二人が店主と話していると、入口の扉から若い女が一人入
って来た。女は三人のいる方へつかつかと歩み寄り、ハヤ
トとエイゴの横に立ち止まって、無言で店主を見ていた。
「いつものでいいのか?」
店主にそう聞かれても、女は何も答えず無表情のままだっ
た。その目は異様に鋭く、冷たい光を放っていた。人でも
殺しそうな目だ、ハヤトはそう思って背筋が寒くなった。
大きな紙袋を店主から手渡されると、女はカウンターにコ
インを一枚置き、くるりと背を向けて、そのまま店から出
て行った。
「あの女のことが気になるのか?」
ハヤトが女の出て行った扉の方をいつまでも見ていると、
店主はにやにやしながらそう言った。
「憐れなやつさ。あれには子供が一人いたんだが、北と南
の連中の争い事に巻き込まれて死んじまった。五歳か六歳
ぐらいだったかな?まだ小さかったよ。誰かが投げた石に
当たったんだ。ひどい死に様だったよ。それであいつはす
っかり人が変わっちまった。気立てのいい娘だったのに、
誰とも口を聞かなくなっちまった。子供を溺愛してたんだ
な。よほどショックだったんだろうよ。」
「旦那さんは?」
「いないよ。母一人子一人だったから、今じゃ一人ぼっち
って訳だ。ここには時々、酒と食べ物を買いに来るんだが、
一言も口を聞かない。あの事件以来、あいつの声を聞いた
ことは一度もないよ。」
ハヤトとエイゴが水と食べ物を買って店を出ると、表はも
う日が沈んで薄暗くなっていた。二人は店主のいう通り空
き家を探して通りを歩いていると、道の両側の町並みの上
に、一際大きな建造物の黒い影が見えた。
「あれが教会と寺院だな。」
エイゴが歩きながら言った。ハヤトの目には二つの巨大な
影が、お互いに睨み合う悪魔か怪物のように見えた。
「教会も寺院も、元々は人の魂を救うために建てられた筈
なのに‥‥何故人はその下で争いを起こすんだろう?」
ハヤトは悲しくなって、独り言のように呟いた。
「あまり考え過ぎるなよ。俺たちには関係ないことさ。」
エイゴがなだめるような口調でそう言った。
それから二人は適当な空き家を見つけ、そこで今夜一晩を
過ごすことにした。
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