(3)


真夜中、やけに騒がしい音がして、ハヤトとエイゴは眠り
から覚め、顔を見合わせた。
「一体何の騒ぎだ?」
表へ出てみると、通りは大変なことになっていた。昼間は
家に閉じ籠っていた人たちで溢れ返り、みな怯えた表情で、
何かから逃げるようにあちらこちらへと走っていた。遠く
の方からは、怒号や悲鳴や銃声や爆発音が入り交じって、
地響きとなって聞こえて来ていた。

二人が呆然として立っていると、向こうから雑貨店の店主
が走って来るのが見えた。
「何があったんだ?」
エイゴが店主に近づき腕を捕まえて尋ねると、店主は青い
顔をして言った。
「えらいことになった!あいつら、全面戦争を始めやがっ
た!」
「全面戦争?」
「教会と寺院に火がつけられて燃えてるんだ!どっちが先
にやったかは知らんが‥‥あいつら、殺し合いを始めやが
った!あんたらも早く逃げた方がいい!ここにいたら命は
ないぞ!」
そう言い捨てると店主は、エイゴの手を振りほどいて逃げ
て行った。
「こいつはやばそうだぞ!俺たちも逃げよう!」
ハヤトとエイゴは通りへ出て、逃げ惑う群衆の中へ飛び込
んで行った。
しばらく人の間をかいくぐって進むと、目の前に一人、道
の真ん中に立ち止まっている人影が現れた。それは昨日、
雑貨店で見た女だった。
女は群衆に何度もぶつかられてよろめき、人ごみの中に倒
れ込んだ。
「危ない!」
ハヤトは思わず叫んで、女に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
女を助け起こしたハヤトは、その顔を見てぎょっとした。
女は薄ら笑いを浮かべていたのだ。
「ここにいたら危ない!戦争が始まったんです!早く逃げ
て下さい!」
「知ってるよ。あたしがけしかけたのさ。」
「けしかけた?」
「そうさ。あたしが教会と寺院に火をつけたのさ。」
「何だって!」
ハヤトは愕然とした。女は突然、大きな声で笑い出した。
「今までの報いさ!思い知ればいい!みんな殺し合って、
みんな死ねばいいんだ!」
「何てことを‥‥」
ハヤトは恐ろしさのあまり、女から手を離して二三歩後退
りした。
「行こう。その女は狂ってる。」
エイゴがハヤトの後ろから肩を掴んでそう言うと、二人は
女をその場に残して走り出した。

町外れの小高い丘の上まで一気に駆け上がったところで、
二人は息が切れて立ち止まった。呼吸を整えながら辺りを
見回すと、そこに人影はなく真っ暗で、遠くの方から町の
惨状を物語る音が、微かに聞こえていた。
ハヤトはまだ、女のことが気に掛かっていた。
「あの人‥‥これからどうなるんだろう?」
「さあな。俺たちにはどうすることも出来ないよ。」

二人は町を振り返った。暗闇の中に二つの巨大な火柱が、
猛烈な勢いで黒煙を噴き上げながら、めらめらと不気味に
輝いていた。






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