第四章 ユートピア

(1)


ハヤトとエイゴが次に訪れた町は、それまでの町とはまっ
たく違っていた。紛争や暴動の痕跡は少しも見当たらず、
建物は綺麗なまま整然と建ち並び、通りには多くの人々が
行き交っていた。
「驚いたな、今時こんな所があるなんて‥‥」
エイゴは自分の目を疑った。まるで一昔前の、平和だった
時代にタイムスリップしたようだ。あるいは夢でも見てい
るのかとも思った。

二人は歩きながら、町の様子を観察した。人々はみな、タ
ブレットのような小さな箱型の機械を手に持っていて、通
りを歩く人も、道端に佇む人も、ベンチに座っている人も、
絶えずその機械に目を向けていた。
エイゴは向こうから歩いて来る、三十歳ぐらいに見える男
を呼び止めて尋ねた。
「旅をしている者だが、この町に宿はあるかい?」
「宿泊施設ならありますよ。旅行者なんてもう何十年も来
ていませんから、ほとんど使われていませんけどね。」
男は顔を上げて、表情を変えずに答えた。まるで機械で作
ったような抑揚のない、感情というものを感じさせない声
だった。
「何処にあるんだい?」
「私が案内しますよ。ついて来て下さい。」
そう言うと男は、二人の前をゆっくりと歩いた。

歩きながらも男は相変わらず、手に持っている箱型の機械
に、時折目を落としていた。ハヤトは段々その機械のこと
が気になって来た。
「その機械、この町の人はみんな持っていますね。それは
一体何なのですか?」
「これはコンピューターの端末機です。町の中心部にある
コンピューターから、この端末機に絶えず様々な情報が送
られて来るのです。私たちは常にその情報に基づいて行動
しているのです。」
「なるほど。しかし驚きました。今の時代にこんな平和な
町があるなんて。」
「そうでしょうね。ここでは町の機能をすべて、コンピュ
ーターが管理しています。電力エネルギーや食料の生産、
工場での労働など、我々人間はコンピューターの指示通り
にすればいいのです。」
相変わらず無表情のまま、男は答えた。






前へ          戻る          次へ