(2)


「ところで、何処かに食べ物を売ってる所はないかい?」
男の後ろをついて行きながら、エイゴが思い出したように
尋ねた。
「食料は配給制になってるんです。今、私が持っているも
のを少し分けてあげますよ。」
男は振り返って、胸のポケットから手のひらよりも少し小
さい、石鹸のような四角い固形物を出して、二人に渡した。
「これが食べ物なのか?」
エイゴは、訝しげにその固形物をじろじろと見回しながら
言った。
「そうですよ。これは必要な栄養がすべて摂れる合成食品
です。これだけあれば、他に必要なものはありません。」
「じゃあ、他に食べ物はないのか?」
「ありません。」
エイゴはそれを一口かじってみた。
「何の味もしないな。これだけじゃあ何とも物足りないだ
ろう。もっと旨いものを食べたくならないのか?」
「そういう欲求はありませんね。」
「ふうん‥‥それじゃああんたらの楽しみは何なんだい?
あんたには趣味はあるのかい?」
「趣味?そんなものはありません。」
「じゃあ、暇な時は何をしてるんだ?」
「暇な時間なんてありません。我々の行動はすべてコンピ
ューターが管理していて、労働、食事、学習、運動、睡眠、
これらすべてをコンピューターが作ったプログラムに従っ
て動いています。」
「それじゃああんたらには、自由がないじゃないか?」
エイゴは驚いて言った。
「自由なんて必要ありません。コンピューターの言う通り
にしていれば、こうして平和に暮らせるのですから。」
男は平然とそう言ってのけた。

ハヤトは、歩きながら町の様子を観察していて、ふとある
ことに気がついた。彼らは誰一人として笑っていなかった。
というより、表情というものがまったくないように見えた。
それからもうひとつ、彼らはみな一人ずつで行動していて、
二人連れや三人連れの姿はなかった。だから通りに会話の
声はなく、聞こえて来るのはただ、歩行者の靴音だけだっ
た。
それだけではない。町なかにいるのは成人の男女ばかりで、
老人や子供の姿は一人も見当たらなかった。

ハヤトにはその様子が何か不自然のような、不思議のよう
な気がしてならなかった。






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