(3)


「お年寄りの姿を見かけませんが、高齢者の方はいらっし
ゃるのですか?」
ハヤトは不思議に思っていることを、思い切って男に聞い
てみた。

「もちろんいますよ。年を取って働けなくなった人間は、
専用の施設に集められて、共同生活をしています。人口の
管理もコンピューターがしていて、死亡者の数の分だけ出
生数を増やして、増減の調節をしているんです。ですから
この町の人口は一定に保たれているのです。」

それを聞いてハヤトは、ふと新たな疑問を抱いた。
「あなたは結婚しているのですか?」
「ここでは結婚という慣習はないんです。」
「では子供もいないのですか?」
「子供は今までに、コンピューターの指示で二人作りまし
たよ。」
「相手の方や子供とは、一緒に暮らしてないんですか?」
「子供は母親が育てて、十歳になったらみんな独立するん
です。」
「十歳で?そんなに早くから一人で生きていけるんですか
?」
「大丈夫です。それまでにコンピューターから必要な教育
を受けますからね。この町の人間はみんな子供の頃から、
この町で生きていくのに必要な教育を、コンピューターか
ら受けているんです。」
「子供に会うことはないんですか?」
「ないですね。」
「会いたいと思わないんですか?」
「どうして?」
「どうしてって‥‥自分の子供でしょう?愛情は湧かない
んてすか?」
「アイジョウ?何ですかそれ?」
「愛情、愛ですよ。子供を愛しいと思うことです。」
「アイジョウ、アイ‥‥そんな言葉、コンピューターは教
えてくれなかったな。たぶん必要ないからでしょう。」
ハヤトは愕然とした。この町の人々はみんな、愛というも
のを知らないのか?

ハヤトとエイゴは、男に案内された宿泊施設で一晩を過ご
して、翌日早々にこの町を去ることにした。
「ねえエイゴ、君はいいのかい?もしかしたらここに落ち
着いた方が、平和に暮らせるのかもしれないよ。」
ハヤトが念を押すように尋ねると、エイゴはさばさばした
様子で言った。
「俺は真っ平だね。自由のない平和なんて、何のために生
きてるかわからないじゃないか?」
まったくその通りだとハヤトは思った。自由を知らない人
たち、愛を知らない人たちは、何のために生きるのだろう?

愛と自由を忘れたユートピアを後に、ハヤトとエイゴは再
び冬の旅へと戻っていった。






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