第五章 壁
(1)
ハヤトとエイゴが歩いていると、遠くの方に何かの巨大な
影が見えて来た。
「あそこに町があるのかな?」
近づいていくと、それはコンクリートの壁で、高さは何十
メートルもあり、左右には何百メートルも、何千メートル
も続いているかのようで、終わりは見えなかった。かなり
古いものらしく、その表面はひびだらけで、泥や苔や草に
びっしりと覆われていた。
「何かの遺跡かな?」
エイゴは壁を見上げながら呟いた。
壁沿いに歩いていくと、人が通れる程の大きさのトンネル
があって、向こう側に抜けられそうだった。二人はそのト
ンネルに入って行った。
暗闇の中をしばらく歩いて、壁の向こう側に抜けると、そ
こは荒廃した町だった。
高さを競うように建ち並ぶ無数の摩天楼が、かつてここが
大都市であったことを雄弁に物語っていたが、長い年月の
間に泥や草木に侵食されて、今にも朽ちて落ちそうな無惨
な姿を曝していた。
「これだけ大きな町が廃墟になるなんて‥‥一体何があっ
たんだろう?」
ハヤトは、一抹の不安を覚えながらそう呟いた。人の姿の
ない荒れ果てた町は、彼にこの世界全体の行く末を思い起
こさせたのだった。
二人が生存者を探して町の中を歩いていると、荒廃したビ
ル群の間に、かつて広場であったと思われる、草木の生い
茂った空間があり、その一角に倉庫のような小さい建物が
あった。近づいてみると、建物の周りにはゴミが散乱して
いて、扉が半分開きかけていた。
「人がいるかもしれない。入ってみよう。」
二人は恐る恐る建物の中へ入って行った。
中は小さな窓が一つあるきりで薄暗く、床は表と同様にゴ
ミが散乱していた。
「誰だ?」
奥の暗がりの方から小さな声がした。
近寄っていくと、痩せこけた老人が毛布にくるまって横た
わっていた。老人は、しばらくハヤトとエイゴを珍しそう
にじっと見つめていた。
「人を見たのは何年ぶりだろう‥‥何処から来た?」
「旅をしている者です。」
ハヤトは屈み込んで、老人に顔を近づけて言った。
「偶然ここに辿り着いたのですが、この町にはあなた以外
に人はいないのですか?」
「ああ‥‥わしがこの町の‥‥最後の生き残りだ‥‥」
老人は干からびた弱々しい声で、ゆっくりとそう言った。
「すまんが‥‥水を飲ませてくれないか‥‥」
ハヤトは老人の頭を持ち上げて、水筒の水を飲ませた。一
口水を飲むと、老人は苦しそうに水筒から口を離して息を
弾ませた。
「ありがとう‥‥」
「これだけ大きな町が廃墟になるなんて、一体何があった
んだい?」
エイゴが老人の耳元まで近づいて尋ねた。
「天罰が‥‥下ったんだ‥‥」
「天罰?」
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