(2)


老人は、途切れ途切れにゆっくりと話し始めた。

「昔‥‥この辺には‥‥いくつかの小さな町があった‥‥
ここも始めはその‥‥小さな町のうちの一つだった‥‥わ
しがまだ‥‥子供の頃の話だ‥‥‥‥
その頃‥‥この辺の地下からは‥‥石油が出ていた‥‥何
処を掘っても必ず‥‥石油が湧いて出る‥‥というほどだ
‥‥‥‥」
老人は一旦言葉を切って、少し休んでからまた話し始めた。

「そのうちに‥‥この町の住人たちは‥‥石油を独り占め
に‥‥したいと考え始めた‥‥‥‥
それで‥‥周りの町を襲って‥‥領土を広げて‥‥巨大な
都市になっていった‥‥‥‥
そしてとうとう‥‥この辺りのすべての町を‥‥滅ぼして
しまった‥‥‥‥」
喋り続けて息が苦しくなったのか、老人は一旦話すのを止
めて呼吸を整えた。

「それから‥‥町の住人たちは‥‥外敵から町を‥‥守る
ために‥‥町の周りに‥‥高い壁を造って‥‥取り囲んだ
‥‥‥‥
こうしてこの町は‥‥巨大な‥‥要塞のように‥‥なった
んだ‥‥‥‥」
老人は、苦しそうに言葉を絞り出した。

「すべての富を‥‥我が物にして‥‥人々は‥‥贅沢三昧
の‥‥暮らしをしていた‥‥‥‥
だが‥‥そんな暮らしも‥‥やがて‥‥終わりの時が‥‥
やって来た‥‥神の怒りに触れて‥‥天罰が‥‥下ったん
だ‥‥」
苦しさに堪えきれなくなって、老人は突然、激しく咳き込
んだ。

「大丈夫ですか?慌てないで、少し休んでからゆっくり話
して下さい。」
見るに見かねたハヤトがそう言った。

「大丈夫だ‥‥最後まで‥‥喋らせてくれ‥‥‥‥」
老人は、なおも必死で話し続けようとした。まるで言葉を
発することで、自分がまだ生きているのを確かめるように。

「ある時‥‥この町を‥‥嵐が襲った‥‥‥‥
雨が‥‥何十日も‥‥降り続いて‥‥町は‥‥水浸しに‥
なっていった‥‥
その上‥‥町の周りの‥‥壁が‥‥水をせき止めて‥‥次
第に水かさが‥‥増えて‥‥洪水になった‥‥‥‥
町を守るために‥‥築いた壁が‥‥仇になったんだ‥‥多
くの人が‥‥水に呑まれて‥‥死んでいった‥‥‥‥」
老人は、甦って来た記憶に興奮した様子で、激しく喘ぎな
がらも必死に話し続けていた。

「雨が止んで‥‥ようやく水が‥‥引いて来た頃‥‥今度
は疫病が‥‥蔓延して‥‥生き残った人たちも‥‥次々‥
犠牲になった‥‥石油もいつも間にか‥‥渇れてしまって
いた‥‥‥‥
こうして‥‥この町は‥‥こんな姿に‥‥なってしまった
んだ‥‥‥‥」

そこまで話すと老人は、最後の力を使い果たしてしまった
ように、疲れ切って黙り込んだ。






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