(3)


「事情はよくわかりました。もう話すのは止めて、休んで
下さい。」

ハヤトが耳元でそう囁くと、老人は安心したように小さく
頷いて目を閉じた。
ハヤトは、この老人が長い間、孤独の苦しみの中で生きて
来たであろうことを思うと、憐れみで胸が引き裂かれそう
になって、涙を堪えることが出来なかった。この人は呼吸
が苦しくなってまでも、人と話したかったのだ。それほど
孤独だったのだ。

「あなたはこれからどうするつもりなのですか?出来るこ
となら一緒に連れて行ってあげたいけど‥‥」
老人の呼吸が整うのを待って、ハヤトがそう問いかけた。

「わしはもう‥‥駄目だ‥‥もう‥‥食べることも‥‥飲
むことも‥‥動くことも出来ない‥‥じきに死ぬ‥‥これ
も‥‥今までの報いだ‥‥天罰が下ったんだ‥‥‥‥」

老人は目を閉じたまま、何かを掴もうとするように両手を
持ち上げた。

「わしにはもう‥‥何の希望もない‥‥この町と一緒に‥
滅びる‥‥だけだ‥‥」

ハヤトは跪いて、老人の手を握った。すると老人の口元が、
微かにほころんだ気がした。

ハヤトとエイゴはしばらく町に留まって、老人の側に寄り
添い、最期を看取ることにした。
老人は次第に衰弱していき、数日後に意識を失って、それ
から間もなく、二人に見守られながら息を引き取った。
二人は老人の亡骸を、建物の前の草地に埋めて町を出て行
った。ハヤトは風の冷たさよりも、悲しみで心が凍りつき
そうだった。

旅路に戻ったハヤトとエイゴは、しばらく歩いた後、立ち
止まっておもむろに後ろを振り返った。遠くからでもまだ
町の巨大な壁が、ありありと見て取れた。

「あの壁、まるで棺みたいだ‥‥」
エイゴがそう呟いた時、ハヤトも同じことを考えていた。

さながら神が用意した、人類のための棺のようだと。






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