第六章 少年
(1)
ハヤトとエイゴが西に進むにつれ、だんだん都市部から離
れていき、町と町との間の距離も遠くなって来た。前の町
を出てから丸一日歩き通して、ようやく二人は次の町に辿
り着いた。
「どうしたハヤト、具合が悪いのか?」
ハヤトの足取りが重くなったのに気づいて、エイゴが心配
して言った。
「うん‥‥いや、大丈夫だ。」
行く先々で悲しい出来事ばかり目の当たりにして、ハヤト
は心が弱っていた。孤児院を飛び出し自由になった筈なの
に、心は相変わらず何かに縛られている気がした。
町に入ると、エイゴはすぐに道で見かけた男に声を掛けた。
「旅をしてるんだが、この町に泊まれる所はあるかい?」
「ああ、この先に婆さんがやってる宿屋がある。酒場の隣
だからすぐにわかるよ。」
「ありがとう。」
男に礼を言うと、二人はそのまま先へ進んだ。そこは古い
木造の建物ばかりの、小さな田舎町だった。
しばらく歩くと、男が言っていた酒場を見つけた。その前
を通りかかった時、入り口の扉が開いて、中からがたいの
いい店の主人らしき男が、五歳ぐらいの少年の襟首を掴ん
で出て来た。
「二度と来るなよ!」
店主がそう言って、少年を店の外につまみ出すと、少年は
勢い余って道に転がった。店主はそのまま店の中に戻り、
大きな音を立てて扉を閉めた。突然のことに、ハヤトとエ
イゴはしばらく呆然と立ち尽くしていた。
「君、大丈夫かい?」
ハヤトは、少年に歩み寄って抱き起こしたが、その体があ
まりにも軽いのに驚いた。よく見ると少年は、青白い顔を
して痩せこけていた。
「何があったんだい?」
ハヤトは優しい声で少年に尋ねた。
「父さんの言いつけで、お酒を買いに来たんだけど、お金
が足りなくて‥‥」
少年は、ごほごほと咳をしながら、か細い声で答えた。
「そんなことでつまみ出されたのか?酷い奴だ!」
話を聞いていたエイゴが、腹を立てて声を荒げた。
「どうしよう‥‥お酒を持って帰らなかったら、父さんに
ぶたれる‥‥」
少年は今にも泣きそうになって、震える声で呟いた。
「ここでちょっと待ってな。」
エイゴはそう言って店の中へ入って行った。
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