(2)


エイゴは酒場の中に入ると、真っ直ぐ奥の店主の元へ近づ
いて行って、今にも掴みかかりそうな勢いで怒鳴った。
「おい、いくら何でも酷いじゃないか!」
「ああ?」
「金が足りないくらいで、あんなことしなくてもいいだろ
う!」
「何のことだ?」
「今、外に追い出した子のことだ!」
「ああ、あれか。足りないんじゃない。一銭も持ってなか
ったんだ。ただで酒をくれとぬかしやがった。それも今日
に始まったことじゃない。あそこの親父は子供をだしにし
て、酒をせしめようとしてやがるんだ!」
「あの子の父親が?」
店主の話を聞いて、エイゴは少し冷静さを取り戻した。
「どういうことだ?あの子の父親はどういう奴なんだ?」
「飲んだくれの馬鹿親父さ。昔は腕のいい職人だったが、
事故で片足が不自由になってからは、仕事もせずに酒浸り
の毎日さ。それで女房は愛想を尽かせて、子供を残して出
て行っちまった。そのうち金も底をついて、酒も買えなく
なっちまって、それで子供を使って酒を手に入れようとし
てやがるんだ。最初のうちは可哀想だから恵んでやってた
んだが、こっちも商売だからな。いい加減にしないとたま
ったもんじゃない。」
店主は汚れたグラスを拭きながら、淡々とエイゴに説明し
た。
「そうか‥‥今日のところは俺が金を出すから、酒を売っ
てくれ。」
「それはいいが‥‥あまり情けをかけない方がいいぞ。図
に乗ってつけ上がるからな。」

酒を買うとエイゴは店から出て来て、少年に渡した。
「ほら、これを持って行け。」
「ありがとう。」
少年は、恐る恐るそれを受け取ると、礼を告げてよろよろ
とおぼつかない足取りで帰って行った。

「あの子、身体中あざだらけだったよ。お父さんにぶたれ
るんだって。」
少年を見送りながら、ハヤトが心配そうに言った。
「子供を殴るなんて、人間のくずだ!」
エイゴは吐き捨てるように言った。彼は死んだ弟のショウ
ゴのことを思い出していた。

それから二人は、酒場の隣の家の戸を叩いた。そこは一見、
普通の民家のようだったが、入口に「宿泊所」という手書
きの札が掛けてあった。
中に入るとすぐに、奥から背の低い老婆がやって来て、前
金を受け取ると二人を奥の部屋に案内した。
「食事はなしだよ。隣の酒場で食べるんだね。」
老婆は無愛想にそう言うと、部屋を出て行った。粗末なベ
ッドが一つあるきりの、狭い部屋だったが、二人が寝泊ま
りするには充分だった。
「顔色が悪いな。少し横になれよ。」
ハヤトの様子を見て、エイゴはそう言った。
「うん‥‥」
ハヤトは力無く答えるとベッドに横たわった。






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