第七章 野宿
(1)
ハヤトとエイゴが町を出てから丸一日歩き通しても、人家
は一軒も見つからず、舗装された大きな道は、土と草ばか
りの道に変わり、周りに見えるのは枯野と林ばかりだった。
そのうち辺りは暗くなって、すっかり夜になってしまった。
「仕方ない、今日はこの辺で野宿しよう。」
エイゴがそう言って、二人は道の脇の林の中へ入って行っ
た。
野宿に適当な場所を探すと、二人は枝を集めて来て火を焚
き、その横に並んで腰を降ろした。それから持っていた紙
袋を脇に置いて、中からパンや缶詰など、前の町で買い込
んだ食べ物を取り出した。
「だいぶ金が減ってきたな。」
エイゴが懐を手で探りながら言った。
「どうするの?」
「何処かで仕事を見つけないと。」
「仕事なんてあるのかな?」
「さあな。なければ盗みでもするか?」
出し抜けに思いがけないことを言われて、驚いた顔をして
いるハヤトの肩に手を掛けて、エイゴは笑った。
「冗談だよ。まあ、何とかなるさ。」
それでもハヤトは、不安そうな硬い表情を崩さなかった。
「僕たち、これからどうなるんだろう?」
「あんまり考え過ぎるなよ。どう転んだって、孤児院に戻
るよりはましだろ?」
「そうだね‥‥」
「今夜は交代で寝て、火の番をしよう。枝を集めて来るか
ら、ここで待ってろよ。」
そう言い残して、エイゴは立ち上がり、林の奥へ入って行
った。
一人残されたハヤトは、ぼんやりと目の前の炎を眺めてい
た。するとそれが、かつて訪れた町で見た燃える教会と寺
院を思い起こさせ、彼の心にあの時の悲しみを甦らせた。
ハヤトの心の中にはいつも、半透明の霧のような悲しみが
立ち込めていて、それが晴れることは決してなかった。彼
はいつでも、記憶の中の悲しみという荷物を背負っていた。
強欲、嫉妬、敵意、復讐‥‥この世界は怒りや憎しみで充
満している。この悲しみの果てには何があるのだろう?
それを考えると彼は、恐ろしくてたまらなくなった。
そうやってしばらくハヤトが考え事をしていると、林の奥
の方から足音が近づいて来るのが聞こえた。
「エイゴかい?」
しかし、林の中から現れたのは、エイゴではなかった。
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