(2)
その日の夜遅くまで仕事をした後、二人は牛飼いの主人に
頼んで、牛舎の隣にある干し草の貯蔵小屋で寝泊まりする
ことが許された。
小屋に入ると二人はすぐさま、くたくたに疲れた体を干し
草の上に放り出して大の字になった。
「やれやれ、こっ酷くこき使われたもんだ。でも、これで
暫くは食べるのに困らずに済みそうだな。」
その日の報酬として貰った干し肉と干し芋を頬ばりながら、
エイゴは言った。
「どうした?何を考えてるんだ?」
何も答えず、ぼんやりとしているハヤトに、エイゴはもう
一度話しかけた。
「今日、一緒に働いてた子のことか?」
「うん。あの子の目が気になって‥‥あんな目を見たのは
初めてだ。」
「目?目がどうしたんだ?何が違うんだ?」
「うまく説明出来ないけど‥‥何だか他人とは思えないん
だ。そうだ、あの目‥‥父さんに似てるんだ。」
「お前の親父に?そう言えば、お前の親父もお前みたいに
怒ったことがないって、前に言ってたよな?」
「うん。お祖父ちゃんもそうだよ。お祖父ちゃんは子供の
時に、隕石にぶつかって怒らなくなったんだって、父さん
が言ってた。」
「隕石に?へえ、そんなことってあるのかな‥‥」
そんな話をしているうちに、いつの間にか二人は疲れて眠
り込んでしまった。
その村では畑持ちが野菜や穀物を、牛飼いが牛乳や肉を作
り、それを必要を応じて交換しながら暮らしていた。表向
きは友好的に見えたが、その実お互いを見下し合っていて、
食べ物の交換の量や土地をめぐって、事あるごとに小競り
合いが起きていた。特に牛飼いは、畑持ちより自分達の方
が働きも多く、人として優れていると思い込んで、畑持ち
を蔑むきらいがあった。
ハヤトとエイゴはそれから二日ほど、牛舎で働いた。人手
が増えて、牛飼いの主人は上機嫌で、仕事の後二人を自宅
の夕食に招いた。
牛の肉の並んだテーブルを囲んで、主人とその妻の小太り
の女、それにハヤトとエイゴの四人が席に着いた。
「娘さんは一緒に食べないんですか?」
ハヤトは、あの若い女がいないのを気にして尋ねた。
「娘?ああ、あれか。あれはうちの娘じゃない。よそから
働きに来てるんだ。」
肉料理を頬張りながら、牛飼いの主人が答えた。
「そうですか。家族はいるんですか?」
彼女のことが気になるハヤトは、更に聞いてみた。すると
今度は、牛飼いの妻が口を開いた。
「母親と二人で暮らしてるよ。母親が病気で寝たきりなん
で、あの子が働きに出てるのさ。だけど‥‥その母親って
のが、実は本当の親子じゃあないんだ。」
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