(5)


ハヤトが小屋に戻って来ると、エイゴはまだ起きて待って
いた。
「彼女、大丈夫なのか?」
「うん‥‥」
ハヤトが上の空で返事をしたので、エイゴは気になって尋
ねた。
「どうした?何か考え事か?」
「君に話があるんだけど。」
「何だ?」
「うん‥‥僕はこの村に残ろうと思う。」
「残るって?」
「つまり‥‥旅をやめようと思うんだ。」
エイゴは少し驚いた顔をした。
「ここに住み着くってことか?」
「うん、ここで彼女の傍にいて、彼女を助けてあげたいん
だ。でも、君が旅を続けるなら、それは止めないよ。僕一
人ここに残る。」
「本当にいいのか、それで?」
「ああ、君とはお別れになっちゃうけどね。」

エイゴは腕を組んで、少し考えてから口を開いた。
「随分思い切ったもんだな。でもお前らしいよ。あの子を
放っておけないなんてな。お前の気持ちはわかった。俺も
もうしばらくここに留まって、旅をやめるか続けるか、よ
く考えてみるよ。」
「ごめんね、勝手なこと言って。」
「いや、いいさ。」

翌日からハヤトは、牛舎の仕事を終えるとサツキと一緒に
帰って、彼女の家事を手伝った。
「余計な世話だよ!物好きな男だね!」
そう言ってサツキの母親は、始めのうちは迷惑そうな顔を
したが、何を言ってもハヤトが辛抱強く通ってくるので、
そのうち諦めて何も言わなくなった。
家の仕事は想像以上に大変だった。掃除、洗濯、食事の支
度から母親の世話まで、これを今までサツキが一人でやっ
ていたのかと思うと、ハヤトはあらためて彼女に尊敬の念
を抱かずにはいられなかった。

ある日、ハヤトが部屋の掃除をしていると、サツキの母親
が声を掛けてきた。
「ちょっと、あんた。」
「何ですか?」
ハヤトはベッドに近づいて行って聞いた。
「あたしのこと、さぞ酷い母親だと思ってるんだろうね?
あの子もそう言ってたろう?」
するとハヤトは、にっこり笑って答えた。
「いいえ、そんなことありませんよ。あなたが今までどれ
たけ苦労して来たか、彼女から聞いています。彼女もちっ
とも、あなたを悪く思っていません。あなたを本当の母親
のように愛していますよ。」

母親は、ハヤトの顔をしばらくじっと見て、何も言わずに
ぷいと向こうを向いた。






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