(6)


数日後、サツキの母親の容態が急変し、衰弱して意識を失
った。ハヤトとサツキは、交代で夜通し母親の看病をした。
ある夜、ハヤトが傍についていると、母親は目を明け、ハ
ヤトの顔をじっと見て、棘のない小さな声でゆっくり話し
始めた。
「あの子に伝えておくれ‥‥今まで済まなかったね‥‥あ
りがとうって‥‥」
それを聞いて、ハヤトは胸が一杯になった。
サツキがして来たことは無駄ではなかった、報われたのだ
と思った。
「それは彼女に直接言ってあげて下さい。彼女も喜びます
よ。」
母親は微かに笑みを浮かべて、静かに目を閉じた。それま
で見せたことのない、とても穏やかな顔だった。
ハヤトはすぐにサツキを起こしに行ったが、戻って来た時
にはもう、母親の意識はなくなっていた。そしてあくる朝、
そのまま静かに息を引き取った。母親の最後の言葉を伝え
ると、サツキはその体にすがりついて、いつまでもいつま
でも泣いていた。

それから更に数日後、母親の埋葬も終わり、
ハヤトとエイゴはサツキに別れを告げて、村を発つことに
した。
「いいのか?あの子を残して行って。」
「うん‥‥彼女はもう大丈夫、一人でも生きていけるよ。
ここじゃあ僕らは所詮よそ者さ。僕らの居場所はここじゃ
ない。」
サツキのことを思うと、ハヤトの胸は苦しくなったが、い
つまでもこの村に留まってもいられないと、懸命にその思
いを絶ち切ろうとしていた。

東の空に朝日が昇り始める頃、二人は村を出発した。村を
出て山道に差し掛かろうとした時、背後の遠くの方から声
が聞こえて来た。
「待ってえ!」
振り返ると、サツキが走って来るのが見えた。
二人に追いつくと、サツキははあはあと息を切らせながら、
途切れ途切れに話し始めた。
「お願い、私も連れて行って。」
「何を言ってるんだ!無茶だよ。旅は君が思っているより、
ずっと大変なんだ。君には耐えられない。村に残っていた
方がいい。」
ハヤトは驚いてそう言った。
「嫌よ!お母さんが死んでしまって、私にはもう誰もいな
い。一人ぼっちよ。ここには悲しい思い出しかないわ。こ
こにいても私は生きていけない。だからお願い、一緒に連
れて行って!何でもするから!邪魔になったら置いて行っ
てもいいから!お願い!」
サツキは涙を流し、顔をくしゃくしゃにして懇願した。ハ
ヤトは困った顔をしてエイゴを見た。
「そんな顔するなよ。お前も本当は連れて行きたいんだろ
う?わかった、ついて来な。」
エイゴはそう言って笑った。それを聞いてサツキは、更に
顔をくしゃくしゃに崩して、何度も何度も頭を下げた。
「ありがとう!ありがとう!」

ハヤトとエイゴにサツキを加えた三人は、冬の厳しい寒さ
の中、気持ちも新たに山道へと入って行った。






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