(3)
夜の闇が森を覆い始めていた。ハヤトとサツキは、エイゴ
を両脇から支えながら森の中を進んだ。遠くに野犬の遠吠
えを聞きながら。
二人の間でエイゴは、ぜえぜえと苦しそうに白い息を吐き
ながら、引きずられるようにしてなんとか歩いていた。ず
たずたに破れた服は、血で真っ赤に染まっていた。空腹と
凍えるような寒さで三人とも疲れきって、今にも立ち止ま
りそうだった。
「降ろしてくれ。少し休もう。」
そう言われてハヤトとサツキは、エイゴを茂みの上に降ろ
して仰向けに寝かせると、頭を持ち上げて、凍えて震える
手で水筒の水を一口飲ませた。
「ハヤト、俺はもう駄目だ。足の感覚がなくてもう一歩も
動けない。ここに俺を置いて行け。」
エイゴは肘をついて体を起こすと、ハヤトの顔を見ながら
静かな声で言った。
「何言ってんだ!そんなこと出来ない!」
ハヤトは驚いてそう叫んだ。
「いや、もう無理だよ。そのうち野犬どもがまた襲って来
るだろう。もたもたしてたら三人とも奴らの餌食だ。俺は
いいから、お前たちだけで逃げるんだ。」
エイゴは、懐から銃を出してハヤトに差し出した。
「これを持って行け。」
「いらないよ。僕には銃は撃てない。」
「馬鹿野郎!俺がいなくなったらお前がその子を守らなき
ゃいけないんだぞ。そんなこと言ってられないだろ!」
エイゴは声を荒げてそう言うと、躊躇するハヤトの手を取
って無理矢理銃と弾丸の入った袋を握らせた。
「さあ、もう行け。野犬どもが来る前に。」
そう言われて胸を押されたハヤトは、立ち上がって二三歩
歩きかけてから立ち止まって振り返り、悲しい顔をしてエ
イゴを見た。
「行けったら!」
最後の力を振り絞ってそう叫ぶと、エイゴは手元の土を掴
んでハヤトに投げつけた。それでもハヤトはしばらくその
場でエイゴを見つめていたが、やがて顔をくしゃくしゃに
して、サツキの手を引いてエイゴの傍から離れて行った。
二人の姿が見えなくなるまで見届けると、エイゴは力尽き
て仰向けになり、安心したように大きなため息をひとつつ
いて、静かに目を閉じた。
夜の闇はいよいよ森を覆い尽くし、野犬の遠吠えはいよい
よ近づきつつあった。
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