(4)


ハヤトとサツキは暗闇の森の中を、迷子のように宛もなく
歩き続けた。どこまで行っても同じ景色が続き、冷たい風
に晒されて、二人とも手足の感覚がなくなってきていた。
しばらくすると雪が舞い始めた。それがだんだん強まって
来たかと思うと、あっという間に吹雪になった。雪と風が
枯れ木の枝の間をすり抜けて、容赦なく二人に襲いかかっ
た。

「私、もう歩けない‥‥」
サツキが声を絞り出すように言った。
「うん、少し休もう。」
ハヤトは辺りを見回して、見つけた大きな倒木の下のわず
かな隙間にサツキを寝かせた。
「眠いわ‥‥少し眠ってもいい?」
「うん、少しだけだよ。」
ハヤトが答えるや否や、サツキは目を閉じて眠ってしまっ
た。その顔は死人のように真っ白だった。それを見てハヤ
トは絶望的な気持ちになった。エイゴ‥‥サツキ‥‥愛す
る人を失う悲しみと孤独の恐怖に突然襲われ、彼の心は混
乱して、頭がおかしくなりそうだった。
倒木の傍らに膝まづいて、ハヤトは肩を震わせて泣いた。
そして天を仰ぎ、吹雪に顔を晒しながら、声を枯らして叫
んだ。

「神様!どうして僕をこんなに苦しめるのですか?どうし
て世界はこんなに残酷で悲しいのですか?
僕はもう堪えられません!頭がおかしくなりそうです!こ
れは何かの罰ですか?僕は何かいけないことをしたのです
か?
教えて下さい神様!どうしたらこの苦しみから、この悲し
みから逃れられるのですか?どうしたら普通の人間になれ
るのですか?どうしたらまともな人間になれるのですか?
僕は普通の人間になりたい!まともな人間になりたい!他
のみんなと同じように!
教えて下さい神様!どうしたら僕は普通に生きられるので
すか?
ああ神様!答えて下さい!」

答えはなかった。耳に聞こえるのはただ、吹き荒ぶ風の轟
音だけだった。

ハヤトはおもむろに懐から銃と弾丸の入った袋を取り出し、
力の限り遠くに放り投げた。それからうなだれて倒木の下
に潜り込み、眠っているサツキの横に寄り添って目を閉じ
た。途端に睡魔に襲われ、眠りについた。

雪と風は、更に激しさを増しつつあった。






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